中国の休日(連休日程)の決まり方
中国の法定祝日の根拠規定は「全国年節および記念日休暇弁法」という法律です。この法律は建国直後の1949年12月23日に制定され、1999年、2007年、2013年と3度の改正を経て、現在はつぎのように規定しています。
第二条 公民全員が休みとなる祝日
(一) | 新年 | 1日休 | (1月1日) |
(二) | 春節 | 3日休 | (農暦正月1日、2日、3日) |
(三) | 清明節 | 1日休 | (農暦清明の日) |
(四) | 労働節 | 1日休 | (5月1日) |
(五) | 端午節 | 1日休 | (農暦端午の日) |
(六) | 中秋節 | 1日休 | (農暦中秋の日) |
(七) | 国慶節 | 3日休 | (10月1日、2日、3日) |
政令による休日の振替
法律では年に7つの休日(うち2つは3連休)が規定されているわけですが、実際の運用上はさらに政令によって前後の日曜日と土曜日を移動し、法定休日とつなげて、連休(3連休~)がつくられます。
たとえば下の例では、法定の祝日は14日から16日の3日間ですが、前後の日曜日と土曜日を動かして、7連休にしています。
Feb(2月) | ||||||
S | M | T | W | T | F | S |
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
- 11日(日)⇒ 19日(月)
- 24日(土)⇒ 20日(火)
この振替の決定は、中央政府の国務院(日本の内閣に相当)がおこないます。
振替に使われた土日(上の例では11日と24日)は、平日扱いになります(役所・会社・銀行等は原則通常どおり営業します)。
振替操作でつくる連休の長さは、年によって若干異なりますが、2020年以降は原則次のようになっています。
祝日 | 連休 | 内訳 |
---|---|---|
元旦 | 3連休 | 法定祝日1日+土日 |
春節 | 7連休 | 法定祝日3日+2週分の土日 |
清明節 | 3連休 | 法定祝日1日+土日 |
労働節 | 5連休 | 法定祝日3日+2週分の土日 |
端午節 | 3連休 | 同上 |
中秋節 | 3連休 | 同上 |
国慶節 | 7連休 | 法定祝日3日+2週分の土日 |
この振替操作には規則性がなく、年ごとに政府(国務院)が政令で指定します。
このため、政府の公式発表があるまで翌年のカレンダーは確定しません。例年、この発表は12月初旬です。
発表時期が遅いので、社会生活上かなり不便です。
それでも一年分をまとめて前年12月に発表する今の方式になったのは最近のことで、2000年代前半までは、各祝日の3週間前くらいにならないと、どの土日に振替出勤すればよいか判りませんでした。その頃に比べると、これでも格段の進歩です。
中国の祝日の変遷
祝祭日に関する法律は、これまでおおむね下記のように変遷しました。
建国当初 1949年
中華人民共和国の建国は1949年です。建国当初の祝日はこうなっていました。
(1949年12月23日政務院発布)
全国の年節および記念日の休暇を統一するため、以下の各項のとおり定める。
一、 | 新年 | 1日休 | 1月1日 |
二、 | 春節 | 3日休 | 旧暦1月1日、2日、3日 |
三、 | 労働節 | 1日休 | 5月1日 |
四、 | 国慶記念日 | 2日休 | 10月1日、2日 |
このときの法律では、中秋や端午などの中国伝統の祭日は法定休日になりませんでした。新暦・旧暦(太陰暦)それぞれの新年のほかは、メーデーと、あとは建国記念日のみです。
いかにも社会主義国という感じの素っ気ない祝日でした。
さらに、1960年代半ばに始まる文化大革命の時代には、伝統的習俗に根ざすものはすべて忌むべき古い因習として批判されたため、春節(旧暦正月)の休日は運用を停止されました。
中国で春節の休暇が復活したのは、毛沢東が死亡し、鄧小平により思想・経済の開放政策が実施された後の1980年です(参考:「新中国放暇制度研究」王継軍(内江師範学院副教授)人民論壇(総第406期))。
1949年制定の法律は長いあいだ改正されませんでしたが、その時々の政治状況によって異なる運用がされていたわけです。
経済発展期 1999年改正(2000年施行)
祝日法の改正がおこなわれた1999年は、中国の経済発展が本格化し、都市部を中心に中産階級が増加した時代でした。このときの改正で、労働節と国慶節の休日の日数が増えました。
(1999年9月18日国務院発布)
第二条 公民全体が休みとなる祝日
(一) | 新年 | 1日休 | (1月1日) |
(二) | 春節 | 3日休 | (旧暦1月1日から3日) |
(三) | 労働節 | 3日休 | (5月1日から3日) |
(四) | 国慶節 | 3日休 | (10月1日から3日) |
さらに、前後の土曜日や日曜日の休日を政令により移動し、祝日とつなげて長い連休を作っていました。
春節 | 旧暦元日から7日 | (7連休) |
労働節 | 5月1日から7日 | (7連休) |
国慶節 | 10月1日から7日 | (7連休) |
国が公式に定める7連休が年間3回もあり、旅行好きには嬉しいカレンダーでした。
2007年改正(2008年施行)
2007年の改正では、労働節(メーデー)の休日が3日から1日に減る一方、中秋節、清明節、端午節が法定休日に指定されました。年間の祝日日数は1999年版より1日増えて11日となりました。
(2007年12月14日国務院発布)
第二条 公民全員が休みとなる祝日
(一) | 新年 | 1日休 | (1月1日) |
(二) | 春節 | 3日休 | (旧暦大晦日、正月1日、2日) |
(三) | 清明節 | 1日休 | (旧暦清明日) |
(四) | 労働節 | 1日休 | (5月1日) |
(五) | 端午節 | 1日休 | (旧暦端午の日) |
(六) | 中秋節 | 1日休 | (旧暦中秋の日) |
(七) | 国慶節 | 3日休 | (10月1日、2日、3日) |
目を引く変化は、中華民族の伝統的祭日が法定休日になったことです。
文革期の中国では春節(旧暦のお正月)すら古い因習として否定し、文化財や古寺を破壊してまわった極端な進歩主義が社会を覆いましたが、 そういう時代はもう遠くなったわけです。
近年の傾向
2013年の一部改正(2014年より施行)
2013年12月には、春節の連休に関する小改正がありました。
2013年までの春節は、除夕(旧暦大晦日)から始まる7連休でしたが、2014年は7連休の開始日が後ろに1日ずれて初一(旧暦1月1日)から始まることになりました。
(2013年12月11日国務院発布)
「(二)春節 3日休(旧暦1月1日、2日、3日)」
と改正する。
改正前の法律では、
(二)春節 3日休(旧暦大晦日、1月1日、2日) となっていたので、連休全体が後方に1日ずれることになります。
この法改正が発表されたのは2013年12月11日でした。春節まで2ヶ月を切っていました。
事前には変更の可能性すら報道されておらず、まったく突然の改正でした。
例年どおり旧暦大晦日(この年は1月30日)から連休になると思って帰省のチケットを準備した人は少なくありませんでした。 海外旅行をキャンセルする人も続出しました。国民生活への配慮に欠けた政府のやり方に、ネットには怨嗟の声があふれました。
実に上意下達型の社会であると、いまさらながら感心した次第です。
2015年の祝日
2015年の祝日日程には、いくつかトピックがありました。
*春節連休*
2015年は、2014年の反省を踏まえて、春節連休の開始日が旧暦大晦日に戻されました。 つまり、2013年までと同様に、旧暦大晦日から旧暦1月6日までの7連休となりました(前述の「政令による土日の振替」により、旧暦大晦日が休日に指定されました)。
*中秋節の振替休日*
2015年の中秋節は9月27日で日曜日にあたります。
月曜日が振替休日となり3連休になるところですが、2015年は数日後に国慶節の連休が始まってしまうため、この振替休日は設けられませんでした。
そのかわりに国慶節の連休に関連した代替出勤日が1日免除され、総出勤日数としてはプラスマイナスゼロの帳尻合わせがおこなわれています。
*抗日戦勝記念日*
例年は休日にならない抗日戦勝記念日(9月3日)が、2015年に限り、法定休日に指定されました。
※ 2015年の抗日戦勝記念日について
中国では毎年9月3日が「抗日戦勝記念日」です。
日本が第二次大戦の降伏文書に調印したのは1945年9月2日なので、9月2日が連合国側にとっての戦勝記念日です。
しかし中国では、当時の中華民国政府が翌3日から5日までの3日間を戦勝を記念する休日にしたため、以後、毎年9月3日が抗日戦勝記念日となりました。
中華人民共和国の建国後は、抗日戦勝記念日は重要な記念日ではあるもの、法定休日ではありませんでした。
2015年は戦勝70周年にあたります。記念行事が大々的に執り行われるため、2015年に限って戦勝記念日が法定休日に指定されました。 この日、役所や学校、一般企業は休業します。
2015年9月3日には、北京の天安門広場において大規模な軍事パレード(閲兵式)が予定されています。
中華人民共和国は、1949年の建国以来、14回の大規模な軍事パレードを挙行しましたが、いずれも10月1日の国慶節(建国記念日)の期間中におこなわれました。 国慶節期間以外に大規模な軍事パレードが執り行われるのは、建国以来初めてのことです。
2016年の祝日
2016年の祝日カレンダーは、2015年12月10日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2016年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2015〕18号)
2017年の祝日
2017年の祝日カレンダーは、2016年12月1日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2017年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2016〕17号)
2018年の祝日
2018年の祝日カレンダーは、2017年11月30日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2018年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2017〕12号)
2019年の祝日
2019年の祝日カレンダーは、2018年12月6日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2019年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2018〕15号)
2019年は労働節の祝日(5月1日)が水曜日にあたるため、上記の通達では週末とつながる連休になっておらず、1日のみの単独の休日となる予定でした。
しかしこれが国内で不評であったためか、直前の3月22日に新たな通達が出され、5月1日(水曜日)から4日(土曜日)までの4連休に変更されました。
国务院办公厅「关于调整2019年劳动节假期安排的通知」(国办发明电〔2019〕3号)
国内の声に押された変更と思われます。中国は一党独裁と言われますが、こういう形で民のご機嫌をとることも、なくはないわけです。
2020年の祝日
2020年の祝日カレンダーは、2019年11月21日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2020年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2019〕16号)
労働節が5連休になっていますが、これは国内の要望に配慮した結果とのことです。ただし、増加分は前後の日曜日・土曜日の振り替えで処理されるため、年間休日日数は増えていません。
特筆すべきは、休日スケジュールの発表時期がわずかながら早まったことです。将来的には台湾等のように、初夏ころには翌年の連休日程を発表してもらいたいところです。
2020年初頭の大事件といえば、新型コロナ肺炎の流行です。中国では、社会活動を抑えて感染拡大を防止する目的で、春節の連休が、3日、延長されました。武漢市がロックダウンしていた頃のできごとです。
国务院办公厅关于延长2020年春节假期的通知(国办发明电〔2020〕1号)
2021年の祝日
2021年の祝日カレンダーは、2020年11月25日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2021年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2020〕27号)
前年に引き続き、少し早めの11月中の発表となりました。
また、労働節が5連休になるのも前年と同様です。
2022年の祝日
2022年の祝日カレンダーは、2021年10月25日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2022年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2021〕11号)
10月中に翌年の祝日日程が発表されたのは、おそらく初めてと思われます。昨年よりちょうど1ヶ月早い発表でした。
労働節が5連休になるのは、ほぼ定着したようです。
2023年の祝日
2023年の祝日カレンダーは、2022年12月8日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2023年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2022〕16号)
2024年の祝日
2024年の祝日カレンダーは、2023年10月25日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2024年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2023〕7号)
春節の連休は、例年と比較して1日長い8連休になりました。
また、春節の連休の開始日は旧暦元旦となり、旧暦大晦日(除夕)は休日ではなくなりました。 旧暦大晦日が休日にならないのは2014年以来10年ぶりのことです。
旧暦大晦日を平日にするいっぽうで、政府は、その平日に官民事業者が有給休暇等の制度を活用して労働者に休日を与えることを公式に推奨しています。
中国政府は、数億人が一斉に移動する年末年始の交通需要への対応に例年苦慮しています。
連休の長期化や、連休開始日を分散させる試みは、交通需要の緩和に一定の効果がありそうです。
一種の社会実験のように、さまざまな試みをやってみたいのかな…という印象です。