中国の法定祝日の根拠規定は「全国年節および記念日休暇弁法」という法律です。この法律は建国直後の1949年12月23日に制定され、1999年、2007年、2013年と3度の改正を経て、現在はつぎのように規定しています。
年に2回の3連休と5回の休日が規定されているわけですが、実際の運用上はさらに政令によって日曜日と土曜日を移動して法定休日に接続し、長い連休を作ります。
下の例で言うと、法定の祝日は18日から20日の3日間ですが、前後の日曜日と土曜日を動かして、7連休にしています。
この振替操作によってつくられる連休の長さは、毎年公布される政令の定めによるため年によって若干異なりますが、2020年以降は、原則、次のようになっています。
振替に使われたもとの土日は振替出勤日になり、その日は平日扱いです。
どの土日が振替に使われるかは、規則性がなく、年ごとに中央政府が政令で指定します。このため、政府の公式発表があるまで翌年のカレンダーは判明しません。例年、この発表は12月初旬です。
発表時期が遅いので、社会生活上かなり不便です。それでも一年分をまとめて前年12月に発表する今の方式になったのは最近のことで、2000年代前半までは、各祝日の3週間前くらいにならないと、どの土日に振替出勤すればよいか判りませんでした。その頃に比べると、これでも格段の進歩です。
祝祭日に関する法律は、これまで下記のように変遷しました。
中華人民共和国建国当初の祝祭日はこうなっていました。
このときの法律では、中秋や端午などの中国伝統の祭日は法定休日になりませんでした。新暦・旧暦それぞれの新年のほかは、メーデーと、あとは建国記念日のみです。
いかにも社会主義国という感じの素っ気ない祝日でした。
さらに、1960年代半ばに始まる文化大革命の時代には、伝統的習俗に根ざすものはすべて忌むべき古い因習として批判されたため、春節(旧暦正月)の休日は運用を停止されました。
中国で春節の休暇が復活したのは、毛沢東が死亡し、鄧小平により思想・経済の開放政策が実施された後の1980年です(参考:「新中国放暇制度研究」王継軍(内江師範学院副教授)人民論壇(総第406期))。
1949年制定の法律は長いあいだ改正されませんでしたが、その時々の政治状況によって異なる運用がされていたわけです。
祝日法の改正がおこなわれた1999年は、中国の経済発展が本格化し、都市部を中心に中産階級が増加した時代でした。このときの改正で、労働節と国慶節の休日の日数が増えました。
さらに、日付の近い土曜日や日曜日を政令により移動させ、祝日とつなげて長い連休を作っていました。
元旦 1月1日
春節 旧暦元日から7日 (7連休)
労働節 5月1日から7日 (7連休)
国慶節 10月1日から7日 (7連休)
7連休が毎年3回もあり、旅行好きには嬉しいカレンダーでした。
2007年の改正では、労働節(メーデー)の休日が3日から1日に減る一方、中秋節、清明節、端午節が法定休日に指定されました。年間の祝日日数は1999年版より1日増えて11日となりました。
目を引く変化は、中華民族の伝統的祭日が法定休日になったことです。
文革期の中国では春節(旧暦のお正月)すら古い因習として否定し、文化財や古寺を破壊してまわった極端な進歩主義が社会を覆いましたが、 そういう時代はもう遠くなったわけです。
2013年12月には、春節の連休に関する小改正がありました。 2013年までの春節は、除夕(旧暦大晦日)から始まる7連休でしたが、2014年は7連休の開始日が後ろに1日ずれて初一(旧暦1月1日)から始まることになりました。
この法改正が発表されたのは2013年12月11日でした。春節まで2ヶ月を切っていました。
事前には変更の可能性すら報道されておらず、まったく突然の改正でした。 例年どおり旧暦大晦日(この年は1月30日)から連休になると思って帰省のチケットを準備した人は少なくありませんでした。 海外旅行をキャンセルする人も続出しました。国民生活への配慮に欠けた政府のやり方に、ネットには怨嗟の声があふれました。
実に上意下達型の社会であると、いまさらながら感心した次第です。
2015年は、2014年の反省を踏まえて、春節連休の開始日が旧暦大晦日に戻されました。 つまり、2013年までと同様に、旧暦大晦日から旧暦1月6日までの7連休となりました。
なお、2015年の中秋節は9月27日で日曜日にあたるため、例年ならば月曜日が振替休日となる3連休になるところ、 2015年はその数日後に国慶節の連休が始まってしまうため、例外的に振替休日は設けられません。 そのかわりに国慶節連休の代替出勤日が1日減らされ、プラスマイナスゼロの帳尻合わせがおこなわれています。
また、例年は休日にならない抗日戦勝記念日(9月3日)が、2015年に限り、法定休日に指定されました。
※ 2015年の抗日戦勝記念日について
中国では毎年9月3日が「抗日戦勝記念日」です。
日本が第二次大戦の降伏文書に調印したのは1945年の9月2日で、この日が連合国軍にとっての戦勝記念日です。
中国では、当時の中華民国政府が翌3日から5日までの3日間を休日にしたため、以後、毎年9月3日が抗日戦勝記念日とされました。
中華人民共和国の建国後は、抗日戦勝記念日は重要な記念日ではあるもの、法定休日ではありませんでした。
2015年は、戦勝70周年の記念行事が大々的に執り行われることになったため、戦勝記念日が特例として法定休日に指定されました。 この日、役所や学校、一般企業は休業します。
2015年9月3日には、北京の天安門広場において大規模な軍事パレード(閲兵式)が挙行される予定です。
中華人民共和国は1949年の建国以来14回の大規模な軍事パレードを挙行しましたが、いずれも10月1日の国慶節(建国記念日)の期間中におこなわれました。 国慶節期間以外に大規模な軍事パレードが執り行われるのは、建国以来初めてのことです。
2016年の祝日カレンダーは、2015年12月10日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2016年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2015〕18号)
2017年の祝日カレンダーは、2016年12月1日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2017年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2016〕17号)
2018年の祝日カレンダーは、2017年11月30日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2018年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2017〕12号)
2019年の祝日カレンダーは、2018年12月6日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2019年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2018〕15号)
2019年は労働節の祝日(5月1日)が水曜日にあたるため、上記の通達では週末につなげた連休になっておらず、1日のみの休日となる予定でした。
しかしこれが国内で不評であったためか、3月22日に新たな通達が出され、5月1日(水曜日)から4日(土曜日)までの4連休に変更されました。
国务院办公厅「关于调整2019年劳动节假期安排的通知」(国办发明电〔2019〕3号)
国内の声に押された変更と思われます。中国は一党独裁と言われますが、こういう形で民のご機嫌をとることも、なくはないわけです。
2020年の祝日カレンダーは、2019年11月21日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2020年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2019〕16号)
労働節が5連休になっていますが、これは国内の要望に配慮した結果とのことです。ただし、増加分は前後の日曜日・土曜日の振り替えで処理されるため、年間休日日数は増えていません。
特筆すべきは、発表時期がわずかならが早まったことです。将来的には台湾等のように、毎年初夏ころには翌年の連休日程を発表してもらいたいところです。
2020年初頭の大事件といえば、新型コロナ肺炎の流行です。中国では、社会活動を抑えて感染拡大を防止する目的で、春節の連休が、3日、延長されました。武漢市がロックダウンしていた頃のできごとです。
国务院办公厅关于延长2020年春节假期的通知(国办发明电〔2020〕1号)
2021年の祝日カレンダーは、2020年11月25日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2021年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2020〕27号)
前年に引き続き、少し早めの11月中の発表となりました。
また、労働節が5連休になるのも前年と同様です。
2022年の祝日カレンダーは、2021年10月25日に、中央政府国務院弁公庁から発表されました。
国务院办公厅「关于2022年部分节假日安排的通知」(国办发明电〔2021〕11号)
10月中に翌年の祝日日程が発表されたのは、おそらく初めてと思われます。昨年よりちょうど1ヶ月早い発表でした。
労働節が5連休になるのは、ほぼ定着したようです。